2025年11月4日に千駄ヶ谷で開催された「りんごセミナー」に参加してきました。
医師の工藤あき先生と京都府立医科大学の内藤裕二先生が登壇し、りんごが“ドクターズフルーツ”と呼ばれる理由を科学的に解き明かしました。
今回はその講演内容と、セミナーの最後に行われた7品種のりんご食べ比べ体験の様子をレポートします!
りんごは”食べる美容液”──内藤裕二先生講演

腸内細菌研究の第一人者・内藤裕二先生。
先生は「病気を治す時代から、“病気にならない体”をつくる時代へ」と語り、腸内環境と健康長寿の関係について最新データを交えて紹介しました。
世界的に行われている大規模追跡研究(Nurses’ Health Studyなど)では、食物繊維を多く摂取する人ほど、慢性疾患・認知症・フレイルの発症リスクが低いことが明らかになっています。
中でも、りんごに多く含まれる「水溶性・発酵性食物繊維」は腸内細菌のエサとなり、発酵によって短鎖脂肪酸(酢酸・プロピオン酸・酪酸)を生成。
この短鎖脂肪酸は腸内を弱酸性に保ち、悪玉菌の増殖を防ぐだけでなく、炎症の抑制・免疫バランスの調整・脳機能の安定化など多方面に良い影響を与えます。
また、内藤先生が進める「京丹後多目的コホート研究」では、フレイル(虚弱)な高齢者ほど食物繊維の摂取量が少ないという結果も示されました。
豆類や野菜、果物といった植物性食品を多く摂ることで、腸内細菌の多様性が高まり、加齢による衰えを防ぐ“健康な老化=ヘルシーエイジング”を実現できるというのです。
「りんごに含まれる発酵性食物繊維は腸を元気にし、全身の健康を支える。りんごを日常的に食べることは、健康寿命をのばす最もシンプルな方法の一つです」と先生は語りました。
りんごは”食べるお守り”──工藤あき先生講演

続いて登壇したのは工藤あき先生。
工藤先生は冒頭で「りんごは医師が自信を持ってすすめられる果物」と語ります。
りんごには食物繊維・ビタミンC・ポリフェノールといった健康維持に欠かせない栄養素が豊富に含まれており、しかも低カロリー(100gあたり56kcal)。ダイエット中でも安心して取り入れられる“栄養バランスの優等生”です。
中でも注目すべきは、食物繊維の一種「ペクチン」。
これは腸内で発酵し、善玉菌のエサとなる「発酵性食物繊維」に分類されます。
腸内環境を整えることで便通の改善だけでなく、免疫機能の強化や生活習慣病の予防にもつながることが近年の研究で明らかになっています。
また、りんごの皮の部分には実の部分以上にポリフェノールと食物繊維が含まれているといい、工藤先生は「りんごは皮ごと食べるのがおすすめ」と強調。
国の調査によると、皮ごと食べる人は男性で28.1%、女性で21.5%にとどまっており、先生は「もったいない」と笑顔を交えて語りました。
「りんごの皮には抗酸化作用のあるポリフェノールが豊富。肌や血管の老化を防ぐ“アンチエイジングフード”としても優れています。皮つきで1個食べれば、約1.6gの発酵性食物繊維を摂取できます。」
さらに、りんごの甘味成分は血糖値の上昇を穏やかにする働きもあり、糖尿病予防にも役立つとのこと。
「りんごは“甘くて体にいい”理想の果物。朝食やおやつに1日1個、皮ごと食べるだけで、健康の質が変わります」と締めくくりました。
はたんきょーさんが語る「りんごの豆知識」
講演の合間には、りんご農家でありフルーツインフルエンサーとしても人気のはたんきょーさんがビデオレターで登場。
生産者の視点から、りんごの味わいや品質を決める“科学的な裏側”を紹介しました。
■りんごの甘さは収穫時期で変わる
早生品種の「つがる」はさっぱりとした甘さ、晩生品種の「トキ」「シナノスイート」「王林」「ふじ」は時間をかけて糖が蓄積され、より濃厚な味わいに。
■蜜の正体はソルビトール
蜜そのものは甘くなく、香り成分や清涼感が甘味を引き立てる役割を果たします。
蜜が入りやすいのは「ふじ」や「ぐんま名月」などで、寒冷地・高地ほど蜜ができやすい傾向があるそうです。
■りんごが軟らかくなる理由と防ぐコツ
果実内で生成される「エチレンガス」が熟成を進める原因。
保存は冷蔵庫の冷蔵室や野菜室で行い、収穫時期の早い品種は早めに食べ切るのが理想です。
■美味しいりんごの見分け方
表面にハリがあり、果実の裏がクリーム色で、手に持ったときにずっしり重みがあるものを選ぶのがポイント。
■変色を防ぐ方法
カットしたりんごは、ビタミンC(アスコルビン酸)をまぶすと酸化を防げます。
無味・無臭で美容効果もあり、まさに“食べるスキンケア”。また、繊維に沿って手で割ると細胞を壊さず、変色もしにくくなるそうです。
農学的な知識と暮らしの知恵が交わる内容に、会場からは感嘆の声が上がりました。
7品種のりんご食べ比べ

講演のあとは、参加者全員で7種類のりんごの食べ比べが行われました。
それぞれ色も香りも異なり、りんごの多様な個性を味わえる贅沢なひとときに。
個人的には、淡い黄色が特徴の「黄輝(こうき)」が一番印象的でした。
果汁が豊富で、ほどよい酸味と香りのバランスが絶妙。珍しい品種ながら、上品な甘さと爽やかさが心に残りました。
一方、会場で特に人気が高かったのは、甘味が際立つ「トキ」と「シナノスイート」。
「トキ」は青森県生まれの黄色いりんごで、軽やかな香りとジューシーな食感が特徴。
「シナノスイート」はその名の通りやさしい甘さで、子どもから大人まで幅広く愛される味として多くの人に支持されていました。
参加者からは「同じりんごでもこんなに違うとは」「甘さだけでなく香りや歯ざわりも個性がある」といった声が上がり、会場は終始和やかな雰囲気に包まれました。
“一日一個のりんご”が未来の健康を守る

今回のセミナーで共通して語られたのは、「りんごは医師がすすめる天然の健康食」ということ。
りんごに含まれるペクチンやポリフェノールは腸内細菌や血管、肌、脳にまで好影響を与え、まさに“全身のバランスを整えるフルーツ”です。
現代人に不足しがちな食物繊維を手軽においしく補えるりんご。
忙しい日常の中でも皮ごと1個のりんごを習慣にすることで、私たちは自分の体を“整える力”を取り戻すことができるのかもしれません。
「病気を治す前に、病気にならない食生活を。」
りんごが持つシンプルな力がその第一歩を後押ししてくれるはずです。

